Googleでは年に数回ほど、検索アルゴリズムとシステムに大きな変更を加える「コアアップデート」を実施している。

このコアアップデートによって、それまで上位表示されていたWebサイトが急激に順位を落としたりするなど、Webサイト運営においてこのコアアップデートを無視することは、運営者の責務を放棄することと等しい。

とはいえ、検索アルゴリズムはブラックボックスであり、コアアップデートの詳細な内容も同様に不明であるため、多くの運営者はコアアップデートによる影響が出始めたことを確認してからでしか動くことができない。

しかし、コアアップデートの歴史を紐解き、Googleの思想や今後のテクノロジーの進化に目を光らせておくことで、ある程度の時流を予測することは可能だ。

検索エンジンの歴史

検索エンジンには、「ディレクトリ型検索エンジン」と「ロボット型検索エンジン」の2種類が存在する。

現在、Google検索を始めとするメジャーな検索エンジンはすべて「ロボット型検索エンジン」であるため、この記事では主にロボット型検索エンジンが世界的に認知され始めた2000年以降からの変遷を辿る。

初期の検索エンジンは「リンク戦国時代」(2000年〜)

初期の検索エンジンは、ページ内のキーワード出現率やサイトのページ数から検索順位を決めるという単純な評価基準であったため、特定のキーワードを埋め込んだページを大量生産するなどの施策が横行していた。

Googleの検索エンジンでは、このキーワード出現率の他に「リンク」という新たな評価基準を持ち込み、「外部から多くのリンクを得ている=引用されているページは良いページ」という評価を検索順位に反映させた。

これにより、「リンクを貼っただけの無価値なサイト」が乱立し、検索ワードに対して全く関係ないページが上位に表示される現象が発生していた。

「リンクさえ貼れば上位表示される」ので、資本でリンクを売買するというビジネスが生まれ、それが昔ながらの「SEO業者」である。

検索アルゴリズムのアップデートによる取り締まり(2003年〜)

このようにして汚染された検索結果の「浄化」を目的に、Googleでは以下のようなアップデートを実施した。

カサンドラアップデート(2003年)

リンクの取り締まりを実施し、隠しリンクや低品質なリンク、不自然なバックリンクを大量に集めたページへの対策が開始される。

フロリダアップデート(2003年)

キーワードを不自然に大量配置しGoogleにサイトの内容を誤認させる、「キーワードスタッフィング」と呼ばれる手法を利用したコンテンツが低く評価されるように。

オースティンアップデート(2004年)

「ヒルトップ(Hilltop)」というアルゴリズムが導入され、著名人や専門家によるコンテンツ(サイト)を「エキスパートサイト」と認識し、評価するように。

パーソナライズド検索導入(2005年)

ユーザーが検索エンジンを使って検索したキーワードや検索した地域、閲覧情報などの履歴から、検索ユーザーの検索意図を汲み取って最適な情報が検索結果に表示されるように。

パンダアップデート(2011年)

ユーザーにとって低品質のWebサイトは順位が下がり、高品質であれば順位が上昇するように。

コピーコンテンツや自動作成された無意味なコンテンツなどは低品質とみなされ、他のWebサイトとの差別化がない内容になっている場合も品質が低いと見なされる場合がある。

パンダアップデートが実施される前に上位を取得していた価値が低いサイトは大打撃を受け、その名前も相まって特に有名なアップデートとして知られている。

フレッシュネスアップデート(2011年)

新鮮な情報を掲載したページを優先的に表示するように。
更新頻度ではなく、あくまでその時に旬な情報が上位表示されるように)

ペンギンアップデート(2012年)

検索順位を上げることを目的に行われるブラックハットSEOや、スパム性のある行為を厳しく取り締まるために導入されたアップデート。

低品質な被リンクを集め、検索順位を上昇させようとしているWebサイトが影響を受け、順位が低下。

ペイデイローンアップデート(2013年)

金融系やアダルト系、クレジット系などのキーワード検索を行った際に、低品質なWebサイトが上位に表示されることを防止するためのアップデート。

ハミングバードアップデート(2013年)

ユーザーの検索意図にマッチした結果を表示しやすくしたアップデート。

ユーザーが入力した検索キーワードを言葉の羅列で認識するだけでなく、会話形式の検索でもユーザーの検索意図を汲み取り、検索結果を表示するように。

モバイルフレンドリーアップデート(2015年)

Webサイトがスマートフォンによる閲覧に対応しているかが、掲載順位に影響するように。

インタースティシャルアップデート(2017年)

ページの閲覧を妨げるポップアップ広告を表示するページの評価を下げたアップデート。

健康アップデート(2017年)

医療や健康に関する検索結果の改善のために行われたアップデート。

スピードアップデート(2018年)

モバイルサイトの表示速度を掲載順位決定の要素とするアップデート。

BERTアップデート(2019年)

検索クエリの文脈やニュアンスを理解し、さらにユーザーの検索意図に沿った結果を表示するように。

このアップデートによって、複雑な長いクエリであっても高い精度を発揮できるように。

SEOの本質を理解する

一連のコアアップデートが、何を目的に実施されてきたかを理解すれば、今後の検索エンジンのコアアップデートの傾向もわかるようになるだろう。

Googleが掲げる10の事実

まずはGoogleの信条を理解する。

  1. ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
  2. 1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
  3. 遅いより速いほうがいい。
  4. ウェブ上の民主主義は機能する。
  5. 情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
  6. 悪事を働かなくてもお金は稼げる。
  7. 世の中にはまだまだ情報があふれている。
  8. 情報のニーズはすべての国境を越える。
  9. スーツがなくても真剣に仕事はできる。
  10. 「すばらしい」では足りない。

とにかく、「ユーザー視点」であるというのがGoogleの信条の特徴だ。

こういった信条があるからこそ、次のような基準が生まれるのだろう。
過去のコアアップデートの内容を見ても、一貫性が見て取れる。

E-A-T

Googleの検索品質評価ガイドラインでは「E-A-T」の重要性が述べられている。

Expertise(専門性) テーマが統一されており、問題が解決できる、新しい情報を得る、情報が網羅されているなど、
深く価値を得られる高品質なコンテンツであること。
Authoritativeness(権威性) 信頼できる第三者から評価されているコンテンツであること。
Trustworthiness(信頼性) オリジナル性が高く、コピーや模倣されたコンテンツではなく、
専門家としての認知や信頼性が得られていること。

YMYL

YMYLとは「Your Money or Your Life」の略語であり、「人々の幸福、健康、経済的安定、安全に影響を与える可能性のあるページ」においては、特に高い評価基準を設けている。

評価基準は先に記載した「E-A-T」であり、YMYL分野ではより厳しく評価されるためコアアップデートによる順位変動の影響をかなり受けやすい。

YMYLに該当するページ

こちらも、Googleの検索品質評価ガイドラインで詳細が記載されている。

金銭取引 購入・送金・清算などをオンラインで行うページ
金融情報 投資・税・退職・住宅購入・学費・保険などに関するページ
医療情報 健康・医薬・疾病や症状・メンタルヘルス・栄養などに関するページ
法律情報 離婚・親権・遺言・市民権の獲得などに関するページ
公的情報 国や地方の政治政策や法律・災害対策・重要なニュース(国際的な出来事・ビジネス・政治・科学・技術)などに関するページ
その他 養子縁組や自動車の安全に関するページなど

コアウェブバイタル(Core Web Vitals)

Googleはコンテンツの中身だけでなく、そのコンテンツを表示するインターフェースにも気を配っている。

  良好 改善が必要 不良
LCP 2.5秒未満 4秒以下 4秒を超える
FID 100ミリ秒未満 300ミリ秒以下 300ミリ秒を超える
CLS 0.1未満 0.25以下 0.25を超える

LCP(Largest Contentful Paint)

「最大コンテンツの描画」の意味で、ユーザーの認識としてのページ表示速度を測る指標。

ブラウザの表示範囲内で、最も大きなコンテンツ(画像・動画の初期表示画像・背景画像のある要素・テキストを含むブロックレベル要素など、そのページでメインとなるコンテンツ)が表示されるまでの時間を表す。

FID(First Input Delay)

「初回入力遅延」の意味で、ユーザーが第一印象として感じるサイトのインタラクティブ性や反応速度を測る指標。

ユーザーが最初にページ内でアクションを行った際に(クリック・タップ・テキスト入力など)、ブラウザがその操作に反応するのにかかった時間を表す。

CLS(Cumulative Layout Shift)

「累積レイアウト変更」の意味で、視覚要素の安定性を示す指標。

ユーザーが意図せぬレイアウトのずれがどれぐらい発生したかを、独自の「レイアウトシフトスコア」で表す。

検索エンジンの未来

検索エンジンの未来は、「ユーザーとの距離がゼロになる」であると予測できる。

ユーザーが「知りたい」と思った瞬間に、知るべき情報にたどり着ける未来が、Googleが目指すところであり、情報提供者である運営者の目指すべきところだろう。

よって、低品質なコンテンツを無理やり上位表示させることに社会的意義は皆無で、インタースティシャルなコンテンツでユーザーの情報収集を阻害することもまた、社会的害悪であると言える。

概念的なところで言えば、「検索エンジン最適化」としてのSEO(Search Engine Optimization)から、「検索体験最適化」としてのSEO(Search Experience Optimization)にシフトする必要性があるだろう。

(この考え方は、本質的な思考をすれば10年以上前から不変なものであり、今に始まった概念ではないことに留意されたい)

SEO(検索体験最適化)

検索エンジン最適化としてのSEO(Search Engine Optimization)は、検索エンジンにおけるランキング獲得のための戦術だったが、ユーザー目線に立ったときに、この「ランキング」という考え方が崩壊しつつある。

たしかに、自社サイトが「ランキング上位」であることがトラフィックを集める最適な手段であるように思える。

しかし仮に、「ランキング上位」であることが紛うことなき善であるとすれば、検索連動型広告の1位はまさに最強の座であるはずである。

しかし、実際の検索連動型広告1位のクリック率は4%程度だ。

これは「広告?なんか胡散臭いな……」というユーザーの心理が働いている(という要因もある)と推測でき、「ランキング上位こそが最善」という考え方が通用しないことを物語っている。

「いやいや、今はSEOの話をしているのだから広告は関係ないでしょ」

と思われる方も多いと思うが、そのSEOで検索ランキング1位を獲っていても15%しかクリックされていないのだ。

つまり、8割のユーザーは「ランキング1位」のWebサイトに見向きもしないということだ。

SEOの目的は「トラフィックを増やすこと」

この話がなぜ、「検索エンジン最適化」としてのSEOから「検索体験最適化」としてのSEOにシフトする必要性を語る上で必要だったのかというと、多くのWebマーケターがSEOの目的と手段を逆転させてしまっていることに気づいてもらうためである。

「Search Engine Optimization」だとしても、その目的は「トラフィックを増やすこと」であり、「ランキング上位であること」は手段でしかない。

勘の良い方はここで気づくが、「ランキング上位であること」は「トラフィックを増やすこと」に直結していないのにも関わらず、「Search Engine Optimization」で「ランキング上位」を目指すというのは、ユーザーのための施策というよりは検索エンジン(Google)のための施策、もはや自己満足でしか無い。

そのようなユーザーの方を向いていない自社サイト・コンテンツが、仮にGoogleのアルゴリズムの虚を突いて「ランキング上位」にあり続けていたとしても、「トラフィックを増やすこと」という目的のさらに先にある「ビジネス目標の達成」には至らないだろう。

自社ドメインのSEOにこだわるな

では、どのようにして「Search Experience Optimization」で「トラフィックを増やすこと」ができるのか。

結論を先に言えば、「自社ドメイン(=自社URL配下の)のサイト」のみならず、他のサイトに掲載されている、「他のドメイン」配下での自社関連コンテンツ(=自分たちで作ったものか、誰かが作ってくれたものかは関係ない)が、そのキーワードの検索結果の1〜2ページ目にどのぐらい出てくるかを重視するのだ。

ユーザーの多くは、自社のことを知らない。

つまり、プレゼンス(存在感)が無いということだ。

プレゼンスのないところにトラフィックは集まらない。

よって、自分よりもプレゼンスのある他社サイトに自社関連コンテンツを掲載することで、自社のプレゼンスを確保することができる。

「結局、ランキング上位のほうが有利ってことじゃないの?」

「Search Engine Optimization」との最たる違いは、自社ドメインにこだわるか、他社ドメインを有効活用するかだ。

どちらのほうが、ビジネス目標を達成するための手段として適切か、ランキング1位をアイデンティティとしている企業を除けば、多くは後者を選択するのが賢い選択だろう。

コンテンツは誰のためのものか

現場でありがちなのが「SEOのために記事を書こう」という考え方であるが、これも改める必要がある。

先述の通り、SEOは手段であって目的ではない。

よって、現場レベルの施策は以下のようなロジックで取り組むべきである。

  1. 顧客が知りたがってることがある
  2. コンテンツを作ろう
  3. インターネットに載せるなら検索体験にも配慮しよう(SEO)

私たちは、Googleの市場価値を高めるためにコンテンツを贈呈しているわけではない。

あくまでコンテンツはそれを欲しがっているユーザーのために作成し、デリバリーの手段としてSEOを実践すべきだ。

検索エンジンがない世界を想像する

SEOという概念があるがゆえに、小手先のSEOに走ってしまい、やがてその小手先のSEOがGoogleに対策されてしまう。

本質的に我々Webマーケターが考えるべきことは、「SEOや検索エンジンがない世界だったとしたら、どんなことに気をつけるだろう?」という自問だ。

  • 訪問してくれたお客様に気持ちよくコンテンツを読んでもらうために、UXに気をつけよう
  • つながりを強固にするために、ソーシャルも頑張ろう
  • PRにも知恵を絞ろう

役に立たない情報は検索上位に表示させてはならない

「なぜ、デザインも新しくしてコンテンツも増やしたのに自社のWebサイトが上位表示されないのか」

これはコンサルタントとしてクライアントによく聞かれることのひとつだが、その答えはただひとつ、「ユーザーに求められていないから」に尽きる。

もちろん、Googleがそのコンテンツをしっかりと認知できるように最低限の配慮は必要だが、上位表示がなされないサイトやコンテンツの大半は「役に立たない情報」だ。

デザインにしても、視覚的にEuphoriaを享受できるコンテンツ出ないかぎり(その意味ではほぼすべてのBtoB企業は)、凝ったデザインは全くもって不要であり、当然検索順位にも好影響は与えないだろう。
光通信の企業サイトが好例だ)

コンテンツの量にしても、質が伴っていなければ意味のない文字列の集合体に過ぎない。

個人の趣味でブログなどを書いている分にはまだいいが、企業としてコンテンツを世に送るのであれば、低品質なコンテンツで検索結果を汚染させるような反社会的な活動は慎みたい。


参考文献・URL